製造業のグローバル化 国内工場と海外工場の役割分担
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
コーオプセンター長の笹岡(コーオプ教育担当)です。
コーオプ実習で肝になるのが、コミュニケーション力=雑談力という話を前々回のブログで行い、それではということで、社長が常日頃頭の中で考えていると思われること、即ち製造業の現状と将来について具体的な統計データを織り交ぜながら解説しました。さて、新しくできた工学部の3つの特色をご存知でしょうか?①サステイナブル工学、②コーオプ教育、③世界に通用するエンジニア(グローバル化への対応)です。①②はこれまでの私のブログでも触れましたが、③についてはまだでしたので、今回は製造業のグローバル化、特に最近の国内回帰傾向などについてちょっと解説してみたいと思います。
経済産業省が2014年末に実施したアンケート結果(上場している製造業740社対象)によると、そのうち約7割の企業は、海外拠点への移転の決定要因として、海外市場の拡大を挙げています。つまり、マーケットの近くで生産した方が有利と考えたということでしょうか、当然と言えば当然です。
製造業のグローバル化は、昭和60年頃から、プラザ合意による急速な円高の進展により国内で製造するよりも安いという理由で、とりわけ中国、東南アジアをはじめとする新興国への工場移転が進みました。その際海外工場と国内工場の役割分担は、より安く製造しないといけない量産組立品は労働コストの安価な海外工場で製造し、価格の高い高級品は国内工場で製造するというものでした。
そうこうしているうちに、新興国の労働コストも上がってきました。それでも、今度は新興国が経済成長と共に市場として成長し、海外工場から直接現地(海外)市場に製品が売れるようになり、海外工場の位置づけも単なる日本向けの輸出基地から現地市場向けの生産基地に変わったように思われます。そして、従来、国内工場の担当とされていた価格の高い高級品も、海外工場の技術レベルの向上と共にどんどん生産拠点が海外に移り、国内工場は益々縮小を余儀なくされました。
そこに最近のアベノミクスによる円高是正、円安の進行が起こり、国内生産拠点の位置づけが再度問われる事態となってきています。再び同アンケートを見ると、約13%の企業(約100社/740社)が国内に生産拠点を戻したと回答しています。業種別にみると、電機機械、一般機械、自動車部品などが多いようですが、国内生産に戻した理由としては、i) 品質や納期など、海外でのものづくり面での課題があったⅱ) 円高是正で、日本国内で生産しても採算が確保できるようになったⅲ) 人件費高騰などにより、海外の生産コストが上昇したの3点が多く挙げられていますが、必ずしも円安だけが理由ではないようです。
さらに、【国内生産拠点の位置づけ】を見てみると、約700社の6割以上が国内生産拠点を「海外拠点との差異化を図るための拠点」と回答しています。具体的には、ⅰ)新しい技術や製品など新たな価値創造を生み出す「イノベーション拠点」ⅱ)海外へ移管する生産技術や海外工場のバックアップを担う「マザー工場」ⅲ)多品種少量生産や短期生産などに柔軟に対応できる「フレキシブル工場」が多く挙げらていますが、これが現在の製造業の社長さんが国内生産拠点に関して頭の中で考えていることのようです。
最後にまとめますと、最近の生産拠点の国内回帰傾向は(円安はきっかけにはなったかもしれないが)円安だけが理由ではなく、海外工場の納期や品質へのもともとの不満や経済発展による円安以外の要因によるコストの上昇もあったためと考えられます。さらに、国内生産拠点の中でも、そこが「イノベーション拠点」、「マザー工場」、「フレキシブル工場」として役割を持っていれば、為替レートに左右されることなく今後も生き残れそうですね。皆さんが将来、就職で目指しそうな企業は国内工場をどのように位置付けているか、興味が出てきたのではないでしょうか?
皆さんが海外展開している製造業にコーオプ実習に行った時には、以上のような知見が雑談の役に立つことを期待しています。
「コーオプ教育」カテゴリの記事
- コーオプ実習報告会(2017.12.15)
- コーオプ実習(トライアル)の事例発表会と47社の企業の皆さんとの交流会(2015.11.20)
- コーオプ教育試行の思い出(2015.08.22)
- WACA(世界産学連携教育協会)の世界大会からの報告(2015.08.20)
- コーオプ実習の事前学習の一例(2015.08.07)